研究所だより
日本の固有種「オトメユリ(ヒメサユリ)」の無菌播種を行いました。
2024-08-27
野生のオトメユリは近年、獣害等により個体数を減らしています。
当研究所では、日本固有種(日本にしか自生していないユリ)のひとつである、オトメユリの維持にも取り組んでいます。今年は、先代研究員が20年以上前に入手し継代培養していたオトメユリを屋外で栽培、交配させ、種子を作りました。
1枚目の写真はオトメユリの実にあたる蒴果(さくか、さっか)と呼ばれる部分です。この中に種がぎっしり詰まっています。
2枚目の写真は、蒴果を採取し室内に移動させたところです。これは屋外から採ってきた植物体、と言う意味で「外植体」と呼ばれます。外植体には雑菌が多く付着しているため、まずは普通の水道水の中に入れておきます。わずかに次亜塩素酸ナトリウムが含まれていて殺菌力がある水道水の方がうまく行きます。
3枚目の写真は、無菌播種(むきんはしゅ)作業のための準備を終えた実験設備内の様子です。これは「クリーンベンチ」という無菌状態を作る設備です。この中で、滅菌した器具を用いて作業を行います。ビーカー内には蒴果や種子の殺菌、発芽誘導の為の試薬が入っており、この組成や手順が重要となります。それぞれの植物に応じて試薬の濃度や種類、漬ける時間やタイミングを調整します。
4枚目の写真は、殺菌処理を終えた蒴果から種子を取り出しているところです。
種子はコインを積み重ねたようにぎっしりと内部に詰まっています。こんな感じで蒴果が青く未成熟のうちにタイミング良く種子を取り出すと、発芽率が格段に上昇します。
まずは両端を切り落とし、ラインに沿ってメスを切り込み、ピンセットとメスを使って皮をはがします。
実はこの蒴果の皮の向き方、ナイフとフォークでバナナを食べる時のテーブルマナーと手順が同じです。硬さも大きさも違いますが、蒴果をピンセットで抑えてメスで切る感覚は、バナナをナイフで切る時の感覚と少し似ているので、バナナでも多少練習になります。
5枚目の写真は、種子の殺菌から発芽誘導処理までを行っている様子です。
一連の処理を行った後、20粒ずつ栄養満点の寒天培地に無菌的に種まきをします。これが「無菌播種」作業です。
通常の種まきでは発芽率が1割未満の場合もありますが、無菌播種だと3割~7割までアップします。無菌状態で育成するので、病気のない状態で球根を大きく出来ます。