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環境事業開発

研究所だより

お問い合わせがありました(ありがとうございます)

2025-06-03
HPをご覧になった方からお問い合わせがありました。ありがとうございます。励みになります。

回答は別途メールにて返信いたしましたが、ご質問の内容が丁度当研究所の取り組みの説明にもなる内容でしたので、要点だけ抜粋、加筆修正しQ&Aの形でご紹介させて頂きます。
オトメユリの無菌播種と栽培に関するご質問でした。ご質問内容は以下の通りです。


Q1.オトメユリを栽培したものはその後どうなったのでしょうか?

A1.栽培した個体の多くは種子を採り系統を維持する為に使っています。
オトメユリ、ササユリの各系統は全て圃場内で管理され、無菌培養でのクローン増殖と並行して、バルク花粉交配という方法で遺伝的多様性を維持しています。この状態で20年近く、系統を維持しています。
そして余剰品の球根は、「あぐりいといがわ」でネット販売しています。
実はこれが重要です。これは過去に森林総合研究所林木育種センターが沖縄のランの一種を対象に取り組んだ「間接的自然保護」の手法を採用しています。
オトメユリやササユリは球根の価格が高い為、山採り(盗掘)によって数を減らしています。そこで市販の価格よりやや安い価格で販売する事で、盗掘の採算性を低下させ、間接的な自然保護を試みています。

Q2.オトメユリは自生地に地植えをしたのでしょうか?

A2.行っていません。
基本、自生地への植え戻しは「決して行ってはいけない」とされています。遺伝的に、数十年かけて自生している個体を根こそぎ引き抜くのと同じ影響を及ぼす可能性があります。難しい説明は省略しますが、例えば球根を無菌的に増やしたもの(クローン個体)を植え戻すと、集団の大きさにもよりますが、遺伝的浮動によって20~30年後にはそのクローンの遺伝子に近似の個体だけが優占するおそれがあり、大変危険です。
絶滅危惧種では(条件が揃わない限り)決して採用してはならない方法かと思います。

Q3.保全を行っている場所や内容を可能な範囲で良いので教えて頂けますでしょうか。

A3.オトメユリでは行っていませんが、ササユリが似た事例となりますので解説します。
糸魚川市、美山公園内に2箇所、ボランティア団体と市の協力を受けて植栽と管理を行っています。近隣に自生地がありますが、自生地内ではなく、あくまで管理された公園内の特定エリアに植栽しています。現在、近隣からの花粉の授受があるようで結実率が高く、種子が自然に落ちて増え始めており、関東の一部地域では絶滅危惧とされている昆虫類も確認されるようになりました。
自生地ではなく、あくまで人が管理地内で最後まで管理する、という事が前提になろうかと思います。

環境保全(ある程度人為的な介入が許される取り組み)と保護(手つかずの自然を手つかずのまま維持していく取り組み)の境界として、「田畑」と「そうではない場所」の違いを考えると分かり易い、と学んだ事があります。
意外に思われるかも知れませんが、生態学では「人の活動の中で農業生産が最も強い環境負荷を与える」とされています。しかしその農地で「環境にやさしい」事ばかりを意識し優先すれば、肝心の生産性が低下します。生産効率が落ちれば農地が更に必要となり、総体的に環境負荷を高める事になります。人が農地として利用すると決めたなら、その領域内で最も生産効率を高める事が、結果的に保護すべきエリアを手つかずのまま残せる事にも繋がります。大前提として「人が造成した場所」と「そうではない場所」の違いがあり、それに応じて取り組み方も変えていく必要がある訳です。

一方これに関しては、環境負荷を軽減しつつ利益率も高めた好例があります。佐渡の稲作で採用された農法です。トキが捕食するドジョウなどが生育しやすく、なおかつトキにとって安全な餌を提供する為、農業用水路もU字溝ではなくかつての土掘りの水路に変えたと伺っています。コストは当然高くなりますが、佐渡市認証米「朱鷺と暮らす郷」としてブランド化し高付加価値化に成功しました。

ササユリやヒメサユリは、トキとよく似た特性があります。
いずれも「ある程度人の手が加わった環境に生息している」点です。
トキは、日本の自然環境では既に壊滅した水田のような湿地帯を好みます。水田無くしては生きられないとも言えます。ササユリやヒメサユリは、林縁や、森林の中で倒木が出来た時に林内に光が入り込んだ場所に生息します。自然状態では丁度森林に出来た「傷」のようなエリアに一時的に発生し、森林がうっ閉すると自然消滅しますが、人為的に森林が開かれる(森林が傷つく)事で持続的に生息可能になっています。林道沿いなどに良く生えているのはその為です。
いずれも、人が自然と関わる事で好適な生育環境を得た珍しい野生生物と言えます。その一方で人工的な飼育や栽培が困難な点もよく似ています。




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